弁理士法改正  Copy Right 26〜28November 2000


 はじめに
 弁理士法が80年ぶりに改正され、2001年1月6日に施行される(試験関連は2002年施行)。主な改正点について検討する。


 新たに代理可能となった点は???
(1)4条2項……今回の改正で新設された規定で、
1号:関税定率法による輸入差し止めのための侵害物品の認定手続の代理
2号:工業所有権等に関する仲裁及び和解手続の代理
となっています。
 これらのうち、1号の関税定率法に関する規定は、外国からわが国に侵害品が輸入されるような場合に適用されるものです。現在は、ほとんどが偽ブランド品の商標権侵害のようですが、企業の生産拠点が国内から海外にシフトする傾向からすると、今後は特許権侵害などの事案も増大するものと思われ、弁理士が関与することで適切な手続が行われることが期待されます。次に、2号は、具体的には工業所有権仲裁センターにおける仲裁代理等の業務が該当します。工業所有権仲裁センターも徐々にですが適用事案が出てきており、紛争解決の一つの選択肢としての地位を確立しつつある状況です。
(2)4条3項……これも新設の規定で、工業所有権等に関する売買契約やライセンス契約等についての代理や相談となっています。例えば、特許権についてライセンス(実施権)を設定するような場合、現時点ではライセンス契約を弁理士が代理することはできません。しかし、ライセンスの登録は弁理士が行うことができます。これが、改正法によれば、契約から登録までを一貫して弁理士が行うことができるようになります。
(3)5条……裁判所における補佐人の規定ですが、新たに尋問権が加えられました。


 弁理士専権から外れた点は???
 次に75条ですが、特許料の納付や原簿に対する登録申請については、弁理士でなくてもよいことになりました。海外では、特に維持年金管理を専門に行う会社がありますが、わが国でもそういうビジネスが可能となります。


 他の主な改正点は???
(1)弁理士試験制度の見直し……具体的には、予備試験の廃止,試験科目の削減,一定の者に対する試験の一部免除が行われる一方で、著作権法や不正競争防止法などが試験科目に加えられます。なお、弁理士試験関係は、平成14年からの施行となっております。
(2)特許業務法人制度の創設……弁理士事務所の法人化が解禁されます。法人の社員は2名以上の弁理士であり、無限責任が課せられます。
(3)報酬の自由化……弁理士報酬が自由化されます。


 さしあたって何か変わるか???
 では、来年の施行日以降、特に目立って変化することがあるかというと、弁理士報酬が自由化される点が最も大きな変化だろうと思われます。多くの事務所が現在の弁理士会の標準料金表をベースとするものと思われますが、例えばタイムチャージで報酬を計算する,特許後のライセンス料を報酬とするなどの特許事務所が現れる可能性があります(最も現在でも一部にありますが)。つまり、事務所によって費用が変わってくる,あるいはサービスの中身が変わってくるということになります。


 今後の動向は???
 複数の弁理士による共同事務所のいくつかは、特許業務法人に移行する可能性があります。ただし、社員たる弁理士が無限責任を負う点において法人化の意義が低下したことは否めず、当分は様子見の状態が続くのではないでしょうか。なお、出願件数の多い会社が特許出願用の子会社を特許業務法人として設立したり、特許事務所が特定の会社の特許業務法人として子会社化される可能性もあると思われます。

 また、特許業務法人が地方に支店を出すことで、弁理士地域偏在の問題を解消できるのではないかという考え方があるようですが、弁理士の偏在は、結局のところ仕事の偏在が最大の要因であると思われます。研究所や工場が地方にあっても、出願は東京の本社知的財産部で行うという状況では、東京に弁理士が集中するのも無理ないのではないでしょうか。弁理士偏在の問題は、むしろセキュリティなどのネットワーク技術の進展によって解決する可能性が高いと思われます。

 次に、現在でもそうですが、弁理士試験の合格者数が増えます。その結果、例えば、
(1)特許事務所間の競争が激しくなり、良質なサービスが安く提供される。
(2)安かろう悪かろうという劣悪な事案が増える。
(3)専門を特化した特許事務所が出現する。
(4)社内弁理士が増加し、社長や重役が弁理士の資格を持つようになる。
(5)弁理士の資格がないために、昇進・昇給の機会を失う。
(6)資格のない者が特許明細書などを作成する行為が弁理士法に違反するのではないかと問題視される。
などの影響が考えられます。

 侵害事案における訴訟代理につきましては、現在弁理士法の二次改正に向けて検討が行われており、単独代理か共同代理かはさておくとして、何らかの形で訴訟代理権を認める方向のようです。ただし、例えば弁護士及び弁理士を代理人とした場合、代理人費用が単純に計算して2倍になることを意味します。例えば、報酬制度を別途定める,成功報酬分の割合を増やす,代理人費用を敗訴者負担とするなどが考えられます。

 更に、ご尽力された関係者の皆様には敬意を表しますが、今回の弁理士法改正においては、ネット社会における弁理士制度はどのようにあるべきかという非常に重要な視点が欠けているように思われます。弁理士の仕事は、要するに出願人や特許庁との情報のやり取りですから、最もネット社会に適合したものの一つであるといえます。だからこそ、現在でもオンライン手続が可能となっているわけです。従って、弁理士法の改正に当たっては、そのような点を考慮することが非常に重要であり、今後急速に普及するであろうネット社会に十分対応できる内容でなければいけません。

 考えがまとまっていませんが、例えば、
(1)インターネット出願が可能になれば、弁理士の仕事場としての物理的な「特許事務所」が意味を持たなくなる可能性がある。つまり、自宅,出張先,宿泊先などがどこでも特許事務所となり得るのではないか。そのような場合に、支店を置く置かないの議論がどの程度意味をなすのか。
(2)ネット上にのみ特許事務所を開設するということも可能になるが、それはどのように扱われるのか。
(3)将来,弁護士,公認会計士,税理士などが集まった総合法律デパートのようなものを作ろうという動きがあるが、ネット社会でそのようなものが必要とされているのか。
(4)インターネットを通じた業務の遂行過程における守秘義務は、従来と変わらないのか変わるのか。
などです。