先行技術開示制度  Copy Right 10 February 2002


 はじめに

 特許法が改正され、出願発明に関係する先行技術の開示を求める先行技術開示制度が導入される見込みである。産業構造審議会の報告に基づいて検討した。


 制度の概要

1)出願人は、出願時に、特許を受けようとする発明に関連する先行技術を開示します。
2)審査官は、先行技術について記載されていない場合には、出願人に開示を要求します。
3)そして、開示要求に出願人が応じないときは、拒絶理由となるようです。
4)しかし、特許異議申立の理由や特許無効の理由とはならないようです。

 従って、出願時に先行技術の開示を怠っても、審査官からの開示要求に応じて開示することで足りるということであり、他の関連外国出願の審査における引用文献まで逐一開示する必要はないものと考えられます。

 また、実用新案登録出願には、審査官による審査がなく、従って開示要求に従わない場合のペナルティも課せませんので、本制度の適用はないものと思われます。

 更に、PCT経由の日本出願については、PCTで規定された方式要件を満たせばよいわけですから、本制度をそのまま単純に適用することはできないように思われます。その代わりPCTの場合は「国際調査報告があるでしょ」ということでしょう。してみると、通常国内出願とPCT経由出願とは、先行技術を自分で調査するか、国際調査機関で調査してもらうかの点で違うと考えることができます。権利化の可能性について権威ある結論を早期に得たいという場合には、PCT出願が非常に有力な方法であるといえます。


 出願人の対応は???

 特許文献を先行技術として提出する場合は、その文献の出願内容を出願人自らが知っていましたよということを表明することにもなります。そうすると、その出願発明を実施しているときは、補償金請求権行使の対象となる可能性が出てきてしまいます。従って、出願人の立場に立てば、補償金請求の可能性があるような特許文献を除くことになります。すなわち、自社の先行技術や既に特許になった先行技術の文献のみを開示するということです。

 次に、出願はしたものの審査請求しないということも可能性としてはあり、その場合には審査官の開示要求もないわけですから、出願時には先行技術を開示せず、審査請求時に上申書などによって開示するという方法も考えられます。例えば中国は、審査請求時に開示することになっております。

 しかし、関係する先行技術をきちんと開示して審査を受ければ、特許になったときは自信を持って権利を行使することができますが、隠した場合はビクビクしながらの権利行使となります。また、侵害訴訟などの裁判の中で先行技術開示の姿勢が裁判官の心証形成に影響を及ぼす可能も十分考えられます。更に、出願時に先行技術をきちんと調査することは、結局のところ自分の発明をより客観的に評価することにもつながります。本来全く意味がないものを非常に価値があるものと誤って評価したときの企業活動に及ぼす影響を考えてみてください。

 ご承知のように、特許は、取得する時代から行使する時代へ、そして更には商品として取引する時代へと変化しています。先行技術を十分に調査して開示することは、結局は胸をはって堂々と権利を行使できるということであり、特許という商品の品質向上を図ることであると考えることもできます。

 なお、出願人に十分に先行技術を開示しろというのであれば、先行技術を調査するための安価で有用な調査ツールが用意されて然るべきです。現在、特許庁ホームページの特許電子図書館がありますが、平日の日中はほとんどつながらず、とても不便です。これを機会に、大幅な増強を要望します。