PCT      Copy Right 10 November 2002



 はじめに
 特許法が改正され、PCT(特許協力条約)ルートでわが国に手続移行する場合の翻訳文提出期間が、予備審査請求の有無にかかわらず、優先日から30ヶ月(28〜30ヶ月に国内書面を提出したときは32ヶ月)に延長された。これは、PCT同盟総会で採択された「翻訳文提出期限を『優先日から20ヶ月』から『優先日から30ヶ月』とする」との改正を実施するためのものである。PCTをめぐる状況を報告する。

 国内移行期間と指定国数
 従来、国内移行期間は国際予備審査の請求の有無によって変わり、
1)予備審査を請求していない場合・・・優先日から20ヶ月
2)予備審査を請求した場合・・・・・・優先日から30ヶ月
となっていました。
 つまり、出願人としては、予備審査を請求することで、更に10ヶ月の国内移行の猶予期間を得ることができます。国内移行手続を行うためには、多くの場合翻訳文を用意する必要があり、相当の費用もかかります。従って、出願人としては、権利取得の必要性を見極めた上で、翻訳の準備に取り掛かることができると好都合です。このため、予備審査を請求して時間を稼ぐという戦術をとったわけです。次のグラフをご覧ください。年別のPCT出願件数と予備審査請求件数がそれぞれ示されています。
    









 これらのグラフに示すように、出願件数,予備審査請求件数とも年を追って増えています。また、2001年で比較すると、PCT出願103,947件に対し予備審査請求件数は77,550件となっており、予備審査請求率は75%にも上っています。この数字から見ても、多くのPCT出願が優先日から30ヶ月の移行期間を活用しています。
 ところが、このような近年のPCT出願の増大に伴う予備審査件数の増大は、予備審査機関の負担増をもたらしました。そこで、国内移行期間を予備審査請求の有無にかかわらず一律に30ヶ月とするという改正案が採択されました。この改正は、2002年4月以降、各加盟国で順次実施されており、この度わが国でも実施されたということです。

 一方、パリ条約の優先権制度は、第1国出願から1年以内に優先権を主張して出願すると、第1国出願日に出願したという扱いを受ける制度です。これとPCT出願を比較すると、優先権制度は、第1国出願で生じた先願権が1年であるのに対し、PCT出願は30ヶ月=2年6ヶ月であると考えることができます。つまり、いずれの国で権利を取得するかという結論を、パリルートの場合は1年(実質は11ヶ月程度)で決めなければならないのに対し、PCTルートでは2年半(実質は2年5ヶ月程度)で決めればよく、出願人にとっては非常に有利となります。なお、一部20ヶ月の国が残っていますので、注意してください。WIPOのホームページで確認できます。

 次に、指定国ですが、2002年1月1日から5カ国分の指定手数料を支払うことで、すべての加盟国を指定することができます。しかも、将来的には国際事務局に対する手数料が指定国数にかかわらず定額となる模様です。すなわち、PCT出願することで、すべての条約加盟国に対して先願権を確保することができることになります。

 以上の点をまとめると、
(1)パリルート・・・第1国出願を行うことで、すべてのパリ条約加盟国に対して、1年間有効の先願権を確保できる。
(2)PCTルート・・PCT出願を行うことで、すべてのPCT加盟国に対して、2年半有効の先願権を確保できる。
となります。
 一方、指定国数にもよりますが、PCTのほうが余分に費用がかかりますので、この点を考慮していずれのルートを利用するかを選択することになります。

 諸外国のPCT利用状況
 次に、PCTの利用状況を見てみます。主要国の出願件数を円グラフの大きさで示すと、次のようになります。これから明らかなように、米国が圧倒的に多数を占めており、日本は第3位となっています。

  

 図中の着色部分は、2000年における9カ国以上を指定した出願の割合を示します。米国の場合、全出願の79.9%が9カ国以上指定となっているのに対し、日本は29.6%に過ぎません。ドイツも23.1%となっており、日本と近い数字となっています。一方、英国,オーストリア,スエーデン,カナダなどは、いずれも80%以上となっています。このような点からすると、世界の国の多くがPCTで全指定出願を行っている,つまり世界の国で先願権を確保するという戦略をとっていることがわかります。幣所でも、英国からのPCT出願の国内移行手続を行っておりますが、いずれも全指定でした。
 このような数字を見る限りは、さすが米国だなあと感心せざるを得ません。全指定したからといって、すべての国に手続移行するわけではありませんが、数字の差があまりにも歴然としており、特許の分野での米国の優位性は当分続くように思われます。

 実務上のPCT活用法
 場合にもよりますが、通常は出願後に更に改良されたものが発明者から提案されることが多いと思われます。そうすると、最初通常の国内出願を行ってとりあえず先願権を確保し、次に優先権を主張してPCT出願を行うことで30ヶ月の期間を確保するという方法が有力となります。このときに日本を指定国に含めることで、国内優先の出願を別途行う必要はなくなります。一方、米国やEPは、1〜2年あればおおよその権利化の目安がつきますので、それらの国について国内移行手続を早期に行い、その様子を見て他の指定国に対する移行手続を行うかどうかの判断材料にするという方法も考えられます。