間接侵害      Copy Right 1 January 2003



はじめに
平成14年改正法のうち、間接侵害に関係する規定が平成15年1月1日から施行された。従来の客観的要件の規定に加えて、主観的要件の規定が追加され、間接侵害となる範囲が広がった。その概要を報告する。


改正された特許法101条の規定
 まず、施行前は、
「次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
1.特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
2.特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」
となっていました。

 いずれも「その物の生産にのみ用いる物」,「その方法の使用にのみ用いる物」という具合に「のみ」という文言があり、間接侵害の対象物が「のみ」に該当すれば、行為者の意図は問わない規定,すなわち客観的要件のみの規定となっていました。

 これが次のように改正されました。
1.(上記施行前第1号)
2.特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
3.(上記施行前第2号)
4.特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

 つまり、物の発明について2号が追加され、方法の発明について4号が追加されました。

 追加規定は、対象物について、広く流通しているものを除くとともに(カッコ書き)「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に限定していますが、「のみ」に限定していません。従って、対象物に他の用途があるような場合でも、間接侵害となる可能性が出てきます。一方追加規定では、「その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら」という行為者の悪意が追加されています。つまり、客観的要件を緩和するとともに、主観的要件を追加した規定となっています。なお、各号のいずれにおいても、「物」にはプログラムも含まれ、「譲渡等」には電気通信回線を通じたプログラムの提供も含まれます。


適用範囲
 本規定の施行については、特に経過規定が設けられていません。従って、施行日以降の行為について適用されます。また、施行日前に既に成立している特許権についても、施行日以降については、新しい規定が適用されます。更に、追加規定は、いずれも「日本国内において広く一般に流通しているものを除く。」となっており、海外を含んでいません。従って、海外で広く流通している物でも、これを国内に持ち込むと間接侵害となる可能性があります。実用新案権及び意匠権についても、同様の改正が行われています。


追加規定に対する対応
 間接侵害とされる範囲が広がったわけですから、昨年までは間接侵害とならなかったものが、本年1月1日からは間接侵害となる可能性が出てくるわけですが、実際上行為者の悪意を立証することは難しいので、警告を発した後の行為について間接侵害を問うことになるケースが多いと考えられます。
 具体的には、部品は完成品の特許権に対して間接侵害となる可能性があり、ソフトウエアはそれを使用するサーバーや端末の特許権に対して間接侵害となる可能性があります。従って、部品会社やソフトウエア会社としては、取引先に供給する部品やプログラムを使用される物の特許権について知っておく必要があるのですが、現実には取引先が何に使用するのか教えてくれない場合も多いと思われます。そのような場合、「発明の実施に用いられることを知りながら」とは言えませんので、直ぐに間接侵害に問われることはありませんが、警告を受けたときは、速やかに対応する必要があります。
 一方、このような追加規定の存在により、例えばインターネットを利用したシステムの発明について特許を受けることも有意義となってきました。インターネットを利用するシステム発明の場合、システムに使用するソフトウエア,サーバー,端末などを提供する行為が間接侵害となる可能性が出てきましたので、システムクレームで特許を取得する意味が出てきたと言えます。また、費用の点でどうしても複数の請求項を記載することができないような場合は、システムのような大きな請求項を立てるようにし、システムを構成するサーバーや端末などは間接侵害で行くという出願方法も考えられます。要するに、今回の間接侵害の要件緩和により、出願手法として、徹底的に費用を掛けて直接侵害で行くか,間接侵害をあてにして費用を節約するか,の選択の余地が出てきたということです。