意匠法改正の動向  

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はじめに
意匠制度の見直しが進められており、意匠法の改正が具体的なスケジュールとして上がってきた。特許,実用新案,商標に次いで意匠も大幅に改正される見通しである。工業所有権審議会配布資料「意匠制度のあり方に係る検討事項について」に沿って改正の動向を報告するとともに、私見を述べる。

 国際化時代への対応して検討されている事項
(1)願書・図面記載要件の簡素化……全体として記載要件が緩和する方向で見直され、図面表現が多様化されるようです。
(2)特徴記載制度……出願人が、従来との比較において新規な特徴と信じるところを文章や図面として提出する制度です。本願意匠と引用意匠を比較する意見書の前出し的なものと考えると、わかりやすいと思います。
(3)拒絶確定先願・放棄出願の先願の地位……拒絶確定先願等に先願としての地位を認めて後願を排除することについては、諸外国の法制を勘案して否定的な方向で検討されているようです。
(4)機能のみに基づく意匠の保護除外……機能のみに基づく意匠を保護除外することを法律により明確化すべきではないかというのが論点です。弁理士会は、現行法2条1項の「美感」により対応するよう要望しています。
(5)多意匠一出願制度導入の是非……複数の意匠について、一つの願書で出願を行うことができる制度の導入が議論されています。一つの意匠が複数の物品に適用できる場合(自動車とミニチュアカー),部品と完成品などの場合には、一出願可能とすることがデザインの開発実態とあうように思います。
 創造的デザインの保護として検討されている事項
(1)部分意匠,模様のみの意匠の保護……物品の一部である「部分」に係る意匠や、物品を離れた「模様」のみの意匠を保護してはどうかということです。意匠の場合、ちょっと模様を付けるとか、色を変えるということで権利侵害から逃れられるため、どうしても魅力が低下しがちです。しかし、部分意匠や模様の意匠が認められるようになれば、かなり魅力的になるものと思われます。
なお、形状のみの意匠については全く議論されていませんが、その扱いについては色々問題があるように思われます。まず、形状のみの意匠というのは有り得ません。実際の物品には必ず何らかの色(透明も含む)があります。実務上は形状のみで出願が認められていますが、審査は無模様かつ一色の意匠として審査されます。では、権利侵害はどうでしょうか。その形状に模様などを付けたものは形状のみの意匠の利用(意匠法26条)となるのか、それとも、形状が同じで無模様かつ一色の意匠と模様付きの意匠との類似関係となるのか、必ずしも明瞭でないように思います。
(2)システムデザイン等の保護……「組物」の保護対象を拡大して、応接セットやシステムキッチンなどを保護するという案です。この場合、システム全体の意匠とシステムを構成する個々の物品の意匠の登録要件や権利関係をどのようにするのかが問題となります。
(3)創作容易性要件の引き上げ……創作容易性の登録要件を高め、創作性の高い意匠を保護するのが望ましいのではないかとの指摘です。  これについては、基本的に二つの価値観の対立があるように思います。一つは、プロならそれにふさわしいデザインを創作してみろという考え方で、いわば結果重視の考え方です。他の一つは、一生懸命頑張ったのだから結果はともかくして保護してやろうじゃないかという考え方で、いわば過程重視の考え方です。結果重視の立場からすれば、これからの厳しい競争社会を生き抜くためには、努力しただけで評価するという生温いことではダメだということになります。逆に、過程重視の立場からすれば、努力を評価することでやる気を出してもらうことも大事だということになります。我が国の伝統としては、どうも過程重視の考え方が根強いように思います。
(4)類似意匠制度の見直し……デザイン開発や侵害訴訟の実態を踏まえて、廃止する方向、又は類似意匠に独自効力を与える方向で見直すという議論です。  同じ「類似」という概念がある商標制度と比較すると、商標の場合の類似については、外観,称呼,観念で判断するということになっています。つまり、類似を判断する物差しがはっきりしていると言うことです。これに対し、意匠では、残念ながらそのような物差しがありません。極端に言えば、物品毎に類似を判断する物差しが異なるといってもよいのです。しかも、意匠権は類似範囲が独占排他権の範囲ともなっており、類似範囲が明確になるということは権利範囲が明確になるということでもあります。このような点からすると、類似意匠制度は、類似範囲を明確化する物差しとして極めて重要であり、ぜひとも残して頂きたいと考えます。
 また、デザインの実施状況を見ると、本意匠よりはむしろそれを改良した類似意匠が実施されることが多いと思われます。してみると、類似意匠に独自の効力を与えてもよいのではないかと考えます。
 早期保護として検討されている事項
(1)出願公開制度導入の是非……公開は必要か、公開するのであればその代償としてどの程度の権利を付与することが早期保護として適切かという観点から議論されています。
早期保護を極端に行うとすれば無審査主義ということになります。しかし、権利の安定という観点からはやはり審査主義ということになります。審査をやって且つ早期に権利付与をということであれば、かなり乱暴ですが、公開と同時に意匠権(若しくは仮保護の権利)を付与し、その後に審査で不適切なものを消去するようにすればよいのではないでしょうか。意匠権,特許権などは、必ずしも審査後に付与しなければいけないわけではないと考えます。
なお、出願公開制度を導入するのであれば、平成12年のペーパーレス導入のときが適当と考えます。紙による意匠公報発行の体制を整えても2年でおしまいなのですから、ペーパーレス後の出願から公開制度を導入するのが経済的であり、効率的でしょう。
(2)早期審査制度の活用……運用で行っている早期審査を法制化してはどうかという意見です。しかし、法制化といっても、例えば特許協力条約に基づく国際出願の国際調査や国際予備審査のように処理期限を明文化するわけではないでしょうし、結局は運用によってどの程度早期に審査されるかが決まるのでしょうから、法制化することにどれほどの効果があるのか疑問です。
(3)無審査登録制度の併設の是非……これについては、出願公開によって意匠権を付与することで、早期保護のニーズに応えられるのではないかと考えます。どのような制度であっても単純明快なほうがよいのであり、併設には反対です。

 その他
 付与後異議申立制度ついては全く議論されていませんが、意匠登録という行政処分に対する不服申立の機会が与えられるべきであり、また、それが民主主義ということではないでしょうか。意匠権付与後に異議申立を認めるのであれば、早期保護の要請にも反しません。